ジブリの立体建造物展を読んで

本のレビュー

「ジブリの立体建造物展 図録復刻版」は2014年から2018年まで東京、長野、愛知、大阪、熊本で開催された「ジブリの立体建造物展」の公式図録が発行者を変更して復刻した本です

ジブリの監督宮崎駿さんと展覧会の監修をした建築家藤森照信さんがそれぞれ解説をしています

また「思い出のマーニー」の美術監督で展覧会のコンセプトデザイナーであり種田陽平さん

  • ジブリ作品を建造物という視点からおさらいする
  • アニメーションでしか表現できないリアリティがある事を伝えたい

この二点がイベントを開いた原点だと言っています

この本では

建造物や街を宮崎駿氏はどうゆうイメージで描いたか

藤森照信氏はアニメの建物に、現実の建造物の構造を照らし合わせて解説しおさらいしています

またアニメーションでの建造物のリアリティについては「構造」「ディティール」がジブリでは非常に意識して書かれているからだと説明されています

立体建造物なので飛び出す絵本的なものを想像していたら割と読み物でした

しかしこの本を読んでジブリ作品をメインストーリーとはまた違った面白さがある事に気付かせてくれます

おさらいする作品たち

  • 「思い出のマーニー」
  • 「風立ちぬ」
  • 「かぐや姫の物語」
  • 「アルプスの少女ハイジ」
  • 「コクリコ坂から」
  • 「ゲド戦記」
  • 「借りぐらしのアリエッティ」
  • 「耳をすませば」
  • 「崖の上のポニョ」
  • 「ハウルの動く城」
  • 「魔女の宅急便」
  • 「紅の豚」
  • 「千と千尋の神隠し」
  • 「もののけ姫」
  • 「平成狸合戦ぽんぽこ」
  • 「おもひでぽろぽろ」
  • 「となりのトトロ」
  • 「天空の城ラピュタ」
  • 「風の谷のナウシカ」

全19作品

すべての作品でイメージや建築物の説明がありますがここでは特に好きな作品を少し抜粋します

千と千尋の神隠し

油屋

神様の湯屋「油屋」と不思議な街並みが特徴的な作品ですね

この「油屋」は純和風かと思ってましたが建物としては「擬洋風建築」になります

「擬洋風建築」とは明治時代に西洋人の建築物をマネて、それまでの日本の技術で独自にやってしまった建築物です

明治の大工さんは西洋の建物をスケッチしたり刺激を受けたけど、西洋の知識や技術を習得したり弟子入りしませんでした

ただ新しいものを作りたい欲望から生まれ、突然変異のような独特の建築物が「擬洋風建築」です

その時代の大工さんとゆーか仕事へのパッションが新しい文化をつくったんですね

この映画は神事や意匠や民俗的なもの、いろいろな要素がごちゃ混ぜになっているので「擬似風建築」がピッタリだった

いろんな様式や要素をごちゃ混ぜにした建築だけど暖簾に書いてある「ゆ」の一文字で見慣れた安心感ができて、映画を見る人を取り入れている

ちなみにモデルは四国の道後温泉、日光東照宮、京都の二条城などがあります

不思議な街並み

こちらは「看板建築」と言われる建物がならんでます

「看板建築」とは藤森照信さんが名付けたジャンルですが日本は大正時代から多く建てられた店舗併用住宅の事です

特徴は建物の正面が平面の為、そこに装飾をしてまるで一枚の看板のようになっている

あと一階の表半分を立ち売りが基本のお店にして裏半分を座売りにしている場合が多い

でも画像を見て分かる通り文字は漢字だけど日本感がない装飾と色使い

現実の看板建築は木造ですが宮崎駿さんの空想の街なのでいろんな構造とデザインが混ざっています

建物としては日本に多かった「看板建築」で,様式としてはスパニッシュ系といったスペイン風アメリカ産の様式です

夜と昼でもだいぶイメージが変わります

夜は提灯の明かりがアジアっぽく「台湾の九分」(キュウフンが変換で出ない)を彷彿させますが公式で否定していますね

建物の色使いや構造、昼と夜でイメージが変わる事でこの町に迷い込んだ千尋の、「不思議な世界に来た」感覚が共感できるのかもしれませんね

宮崎駿さんの世界観と建造物について

  • 擬似風建築とゆう日本の伝統的な意匠が多様なイメージの宝庫であり、民俗的な空間がどれだけ豊かでユニークであったか
  • 民話風のちんまりしたした世界では表現できない日本には豊かな伝統を持っている事を色鮮やかにうつすことで今の子達に伝えたい
  • 場所は過去であり、歴史である。日本人のアイデンティティを認識させたい

便利なものを取り入れるだけで歴史(過去)を忘れる日本人への警鐘だろうか

過去を忘れた民族はニワトリになって喰われるまで玉子を生みつづけるしかないと思うと述べている

厳しいお言葉です

風立ちぬ

僕が1番好きなジブリアニメです

二郎さんみたいに仕事に熱中できたらどれだけ苦しくて楽しいのだろうと想像します

二郎さんの声優だったエヴァンゲリオンの監督庵野秀明さんの声もよかったです

二郎の大学時代の下宿屋

外観の画像がなかったのでお部屋の画像で失礼します

この下宿屋は東大の近くに実際にあった「本郷館」をイメージされています

建造の造りは押縁下見板張おしぶちしたみいたばり」といって当時の東京下町では多く見られた建物です

一般的な「下見板張り」「アメリカ下見」と呼ばれるものでですが、押縁下見板張おしぶちしたみいたばり」は横板の浮き上がりを防止するため縦に細い板で抑えているのが特徴です

アメリカ下見は「思い出のマーニー」の大岩家で見られます

高原病院

映画の途中に妻の菜穂子さんが病院的なところの屋外で毛布にくるまり療養している、あまり馴染みのない場面がありました

そこは結核患者がその時代、唯一の療養方法だった「空気がきれいなところで免疫力を高める」為の療養施設「サナトリウム」と呼ばれるところです

戦後に「ストレプトマイシン」という抗生物質が治療に使われるまでは、自己免疫を高める為に空気がきれいな海辺や高原に「サナトリウム」を建てて、そこで療養していました

病院は衛生的であることが最優先なので汚れが分かりやすいように白を好み、石や木でたてるよりも近代的な工業製品を多く使われた建築物となります

20世紀の白くてツルっとした建物を推進した陰の力はこの衛生観だったとの事

コスト面ももちろんあると僕は思いますが天然素材から工業製品への移り変わりは衛生面でも影響があったんですね

宮崎駿さんの世界観と建造物について

  • 大正から昭和初期にかけての風土を最大限美しく描きたい
  • 自然が美しい反面、町は貧しかった
  • 建造物についてはセピア色にくすませず、モダニズムの東アジア的色彩の氾濫をあえてする

物語を昔の写真のように「あの時代は…」としたくなかったのでしょう

モダニズムについては思想についてなのか建築物についてなのかはわかりませんが直訳すると近代主義になります

誤訳があるとすみませんが僕はその時代,まだ日本が世界に追い付いてない時代の混沌(色々な国のものを取り入れる、あるいはオリジナルの表現)とした活力を色彩の氾濫により表現したかったのかと思っています

作品全体が美しい映画です

ジブリの建物にリアリティがあるのはなぜか

建築家藤森照信さんが建築で大事なものは「平面」「構造」「ディテール」でいい建築にはこの三点がしっかりしている

平面についてはアニメ(二次元)なので割愛しますが「構造」「ディティール」とは何か

構造

構造とは建築物をつくるときに骨組みを意識する事です

藤森照信さんから見たジブリの建造物は骨組みを非常に意識して書かれていることが分かると言う

アニメの世界にも建設のルールを引っ張ってきて現実でも実現可能な造りになっているのでしょう

ディティール

ディティールとは細部の事です

ディティールに関しては例えば窓を描くにしても木の窓枠にガラスがハマっていてその材質から意識して書いている

省いてもアニメとして成立するところでも細部まで描かれている

また宮崎駿さんは「接地面」を気にする

周りの空間と建物の境目に苦労するらしい

地べたと建築を別で見ない

藤森照信さんも建築物が地べたに定着しているか、曖昧についているかが決まるから「接地面」をとても気にする

アニメの世界でも建物だけではなくその周りの空間に至るまで意識されていることが分かる

材感

「構造」「ディティール」に加えて触覚的な「材感」も二人は大事にしている

宮崎駿さんは旅行に行くと覚えておきたい物に触る

「この木に触るのは生涯に一度だけだから触っておこう」と儀式のように

感触を思い出すとその当時の風景が思い浮かぶ

触覚的記憶から視覚的記憶を呼び起こしている

空想だけどいい建物の条件である「平面」「構造」「ディテール」+「材感」がしっかりしているため現実にはないけど現実的

現実の世界でいい建築を建てるのに必要なものを絵の世界でやっているからリアリティが出る

宮崎駿の異作「ハウルの動く城」

宮崎駿さんは建物などを見て模写をせずどこまで「嘘」をつけるか見極めて自分の空想の建物を描く

ロケハンに行ってもこのくらいなら嘘ついてもいけると確認

そして触ることを最も大事にしている

記憶を呼び覚ますスイッチのように

記憶をたどりイメージを捏造する

「平面」「構造」「ディティール」に加えて「材感」を加える事でより良い建築物が出来上がると藤森照信さんは言っていた

宮崎駿さんは空想と知識を織り交ぜて建造物を描き、触った感触を表現する事で建造物に説得力をもたせているのではないだろうか

ある時作家の加藤周一さんからジブリの社長鈴木敏夫さんに教えたことがあった

西洋の建物は大きな全体の設計図を書く

その後ディティールを詰めていく

昔の日本の建物には設計図がない

まず床柱をきめ床板と天井板

その部屋が完全したら隣の部屋のように全て足し算して行って建築物になるという

ハウルの城もまた目のような大砲、ニワトリのような足、金属の外殻、吹き出す蒸気、裏手には洋風の家となんでもありのような足し算をして「動く城」と一つの建造物にしている

設計図がないから西洋人には作り方が理解できない

これが西洋で宮崎駿が一目置かれる理由なのだと

一見すると滅茶苦茶な形だが藤森氏曰く構造がしっかり意識して書かれているため時間とお金をかければ実現可能だとか

こんなめちゃくちゃな建物を空想で描いて実現可能とゆうことはこの建物を設計したという事だ

素人が建物の設計図が書けないのは当たり前だがなぜこんな建物の設計図が足し算で描けるのか

もちろん知識が豊富でインプットされているものが膨大なのだろう

それでもその道の専門家(例えば建築家)がゼロからハウルの城がおもいつくのだろうか

西洋ではピカソの再来ともいわれたが、やはり天才だと思ってしまう

まとめ

僕のような建築素人でも楽しめる内容でした

特に時代や国によって建築方法が異なり、その理由や歴史を分かりやすく解説されているのでジブリ作品と一緒に楽しめます

紹介しきれていない作品が沢山あるのでジブリ好きなあなたに読んでほしい一冊です

おまけ:藤本照信氏設計の建物

藤本照信さんの建築で九州には大分のラムネ温泉があります

僕も行った事ありますが雰囲気が良くて今まで見た事ない建物でした

構造やディティールは素人なので分かりませんが材質が無機質ではなく自然と調和しているような建築物です

温泉自体はぬる湯で炭酸で体が包まれるような感覚

ぬる湯なのに炭酸のおかげかお風呂から上がったらポッポと火照りました

不思議なお風呂です

大分旅行の際は是非

ラムネ温泉公式サイトよりhttps://lamune-onsen.co.jp/

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